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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)391号 判決 1995年11月30日

大阪市北区芝田一丁目四番八号

控訴人

株式会社ロイヤル

右代表者代表取締役

斎藤正男

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

松本司

岩坪哲

田辺保雄

東京都中野区中野一丁目五〇番三号

被控訴人

株式会社アール・ビー・エム

右代表者代表取締役

鈴木信行

右訴訟代理人弁護士

三山峻司

小野昌延

久保利英明

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

以下においては、控訴人を「原告」と、被控訴人を「被告」とそれぞれ表記する。

第一  申立て

控訴人は、原判決取消しの判決とともに、請求の趣旨のとおりの判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

(請求の趣旨)

一  被告は原判決別紙(一)記載の場所において美容室を経営するについて、「ロイヤル」の名称を使用してはならない。

二  被告は原告に対し、一四四九万九七五三円及びこれに対する平成五年一〇月三日から支払済みまで年五分の割合による金額を支払え。

第二  事案の概要

一  原告の営業と営業表示

1  原告は昭和四六年一月二〇日に設立された美容、理容を目的とする資本金六二一二万五〇〇〇円の株式会社であり、原判決別紙(二)記載のとおり美容室二〇店舗、理容室一八店舗を経営している(原告店舗)。その美容室の店舗の位置関係は原判決別紙(三)記載のとおりである。そのうち、梅田近辺の店舗は、原判決別紙(二)の1、2、3、4記載の四店舗(原告梅田近辺四店舗)であり、その位置関係は原判決別紙(四)記載のとおりである(甲第五一号証、証人長濱博、弁論の全趣旨)。

2  原告は、昭和五九年二月までは原判決別紙(五)記載の営業表示(原告旧営業表示1)を、昭和五九年三月から昭和六一年一〇月までは原判決別紙(六)記載の営業表示(原告旧営業表示2)を、昭和六一年一一月から現在に至るまで原判決別紙(七)記載の営業表示(原告現営業表示)をそれぞれ使用している(甲第五一号証)。

ただし、看板について、現在も原告旧営業表示2〔又はこれと実質的に同一の表示〕を使用している店舗〔検甲第三号証の1、検乙第三四号証の1・2、第三七号証の1・2、第三八号証の1~3、第三九号証の4、第四〇号証の1・2、第四一号証の1・2、第四五号証の1・3〕、あるいは原告旧営業表示1を使用している店舗〔検乙第三六号証の2〕もある。

原告は、原告旧営業表示2及び原告現営業表示の「ROYAL・21」の部分のみを、独立して営業表示として使用することもある(甲第三、第九、第二一、第二二、第二五号証、第二七号証ないし第三一号証、第三三号証ないし第三五号証、第三六号証の13・16、第三七号証の1、検甲第一号証の1・2、第二号証、第三号証の2、第六号証の2、検乙第三三号証の1・2、第三五号証の2、第四三号証の1・2、第四四号証、第四五号証の2、第四六号証の1・2、第四八号証の3、第四九号証の3、第五一号証)。

二  被告の営業と営業表示(乙第八四号証、証人越智強一、弁論の全趣旨)

1  被告代表者は、昭和四五年七月一日、東京都杉並区高円寺に個人営業の「総合理容室ロイヤル」を開店し、昭和五一年一一月一日、同区荻窪五丁目三〇番一七号に同じく個人営業の「美容室ロイヤル」を開店した(検乙第一〇号証ないし第一三号証)。

被告は、被告代表者が右個人営業を前身として、昭和五二年四月五日、右「美容室ロイヤル」所在地を本店として「株式会社美容室ロイヤル」の商号で設立したものである(その際、同時に前記理容室の営業表示を「ヘアーサロンロイヤル」に変更。検乙第一四号証。昭和五三年八月、東京都中野区中野三丁目三四番二九号に本店移転)。

2  被告は、設立当初、美容室を主体に経営し、原判決別紙(一二)のとおり各地に美容室を開店し(ただし、No.1は前記理容室「ヘアーサロンロイヤル」)、各店舗において原判決別紙(八)の営業表示(被告営業表示1)を使用してきた(現在四五店舗。ただし、No.15、17、18、20~22、24~30の一三店舗は、被告代表者が株式全部を保有する関連会社「株式会社ミロード」の経営に係るものであり、営業表示としては、No.26の飯田橋店は「美容室ベリエール」、No.20、22、25、29の四店舗は「美容室ミロード」を使用している)。

被告は次第に、フィットネスクラブ(営業表示として「ベルツリー」を使用。現在二四店舗)及びエステティックサロン(営業表示として「エステdeミロード」を使用。現在七八店舗)並びに託児室(営業表示として「チビーハウス」を使用。現在三〇店舗)をも経営するようになり、美容室、フィットミスクラブ、エステティックサロンの三部門を営業の三本柱とするようになった。

被告は、平成二年四月一日、商号を右三部門の営業表示の頭文字R(ロイヤル)・B(ベルツリー)・M(ミロード)を並べた現商号「株式会社アール・ビー・エム」に変更し、平成三年三月二〇日、本店を現在の所在地に移転した。

3  被告は、右三部門を中心に全国展開を図っており、関西地区において、原判決別紙(一二)記載の店舗のうちの原判決別紙(一)記載の四店舗(本件被告四店舗)で、被告営業表示1を使用して美容室の営業を開始した。

すなわち、

芦屋店(平成二年一二月二八日開店。原判決別紙(一二)No.41)、

高槻店(平成三年四月二七日開店。同No.42)、

宝塚店(平成五年四月一六日開店。同No.43)及び

梅田店(平成五年七月九日開店。同No.44)

である(検甲第八号証の1~3、第九号証の1~3、第一〇号証の1・2、第一一号証の1~4。ただし、アルファベットのRを女性の横顔に図案化した部分〔以下「図案化したR文字」と表すのはこの部分を指す〕は、営業表示を掲載するスペースが小さい場合等には使用されないことがある)。

その後、被告は、本件被告四店舗のうち、梅田店については、平成六年一月から同年五月三〇日までの間に、被告営業表示1から原判決別紙(九)の営業表示(被告営業表示2)に変更済みであり、その余の三店舗についても、被告営業表示2に変更中である(検乙第一号証ないし第三号証、第四号証の1・2、第五号証ないし第九号証、第五二号証の1~4、第五三号証の1・2、第五四号証の1~3。ただし、図案化したR文字は、スペースが小さい場合には使用されないことがある)。

三  原告の請求

本訴請求は、原告が、「ROYAL・21」の表示は大阪府内及びその近辺において、需要者の間に原告の営業を表示するものとして広く認識されているとし、被告営業表示1及び2は右表示に類似し、被告の営業と原告の営業の混同を生じさせていると主張して、被告に対し、不正競争防止法二条一項一号、三条一項に基づき、原判決別紙(一)記載の場所(本件被告四店舗)において美容室を経営するについて「ロイヤル」の表示を使用することの停止を求めるとともに、同法四条に基づき、被告が被告営業表示1を使用して美容室を経営したことにより原告に生じた損害の賠償として一四四九万九七五三円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年一〇月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

四  争点

1  原告の「ROYAL・21」の表示は、大阪府内及びその近辺において需要者の間に広く認識されているか(いわゆる周知性を取得しているか)。

2  被告営業表示1及び2は、「ROYAL・21」の表示と類似し、被告の営業と原告の営業の混同を生じさせているか。

3  被告は不正競争防止法上の先使用権を有するか。

4  被告が損害賠償責任を負う場合に、原告に賠償すべき損害の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(原告の「ROYAL・21」の表示は、大阪府内及びその近辺において周知性を取得しているか)

1  原告の主張

(一) 「ROYAL・21」の表示は、以下の事実から、被告が関西地区で美容室(本件被告四店舗)を開店した平成二年には既に、大阪府内及びその近辺において周知性を取得していたことが明らかである。

(1) 原告は、昭和四六年一月二〇日の設立以来現在まで、「株式会社ロイヤル」という商号のままであり、「ROYAL」という営業表示を用いている(原告旧営業表示1及び2、原告現営業表示)。

(2) 原告店舗全体では一か月約三万人の客が出入りしている。

(3) 原告は、原告店舗中の美容室の開設に当たり、原判決別紙(一〇)の1のとおりの設備投資をしている。そのうち、原告梅田近辺四店舗と、阪急茨木店、アステ川西店、阪急岡本駅ビル店における平成四年一月から平成六年四月までの来客者数と売上高は、原判決別紙(一〇)の2のとおりである。

(4) 原告は、原告店舗中の理容室についても、その開設に当たり原判決別紙(一一)のとおりの設備投資をしている。

(5) 原告は、「ROYAL・21」の表示を使用して、美容室等の開店時その他随時チラシを作成してこれを配付し(甲第三、第九号証、第二一号証ないし第三〇号証)、テレビのスポット広告をし(甲第一〇、第一一号証、第一三号証ないし第一六号証、第一八、第一九号証)、葉書を製作する(甲第一二号証、第三一号証ないし第三五号証)などして宣伝に努め、また、特別会員証、割引券等を発行して(甲第三六号証の1~18)、顧客を誘因し営業努力を続けている。

右の結果、原告の営業と「ROYAL・21」の表示は著名になり、各テレビ局が原告の営業をそのテレビ番組に積極的に取り入れるようになっている(甲第三八号証ないし第四五号証、検甲第一八号証の3~10)。

(二) 被告は、「ROYAL」「ロイヤル」はありふれた用語であって識別力を有しない旨主張するが、一般にはありふれた用語と考えられる「ライオン」や「タイガー」も、商標登録を受けており、現に著名となっていることは顕著な事実である。「ROYAL」「ロイヤル」が、右のような商標よりも識別力、顕著性を有していることは、原告の商号「株式会社ロイヤル」が商号登記されている事実からも明らかである。

(三) 大阪地区及びその周辺地区に存在するロイヤルという名称の理美容室として被告の挙げる原判決別紙(一三)記載の店舗のうち、同表の「大阪(大阪市他)」の欄の2、12は原告が暖簾分けをした店なので、ここでは問題とならず、その他の大阪府下の店舗(ただし、同欄4の店舗は所在が明らかではない)は、<1>美容室のみであって理容室と併存していないこと、<2>それぞれ居住を主とする家の一部を美容室に改造していること、<3>したがって、経営者と店員は多くとも一、二名であることを特徴とする個人企業である。これに対し、原告の理美容室は、<1>繁華街に存在し、<2>近代的なビルの一部を賃借し、<3>その広さは約六〇坪から約九〇坪までであり、<4>しかも美容室と理容室とが併存し、子供の預り室もある、<5>右の事情から家族の者が同時に訪れることができる、<6>造作は豪華であり、ゆとりのある広さをもち、<7>従業員は一〇名以上から成る、というものである。

したがって、原告店舗は、前記の個人企業の店舗とは規模、設備を異にし、全く質的に相違するものなので、その存在は、原告の商号又は営業表示である「ロイヤル」「ROYAL・21」が原告の営業を表示するものとして大阪府内及びその近辺において需要者の間に広く認識されるについて妨げとならない。大阪市内で原告及び被告と同様の経営規模、形態で美容室を営んでいる者は、「ロイヤル」の表示を使用していない。

2  被告の主張

(一) 「ROYAL」「ロイヤル」は、元来「王家の」とか「王者の」を意味する形容詞であり、ありふれた用語であって、本来右の意味内容のほかには識別力を有しないものであり(商標法上いわゆる「ウイークマーク」として論じられている)、その言葉のもつ「気高さ」、「高貴さ」、「威厳」、「堂々とした」といった意味合いから、少なからぬ営業者によって使用されるものである(そのうち、大阪地区及びその周辺地区については後記(二)のとおり)。そのため、原告は、昭和五九年二月までは原告旧営業表示1を使用しており、商号は「株式会社ロイヤル」のままであるにもかかわらず、「ROYAL」「ロイヤル」なる表示は客観的に識別力がないか、極めて弱いと考え、「・21」及び図形を付加して識別力を有する表示(原告旧営業表示2、次いで原告現営業表示)に変更したものである。

このようにありふれた多用される用語が、営業表示として自他識別力を有するに至るためには、「ROYAL・21」の表示について、特段にセカンダリーミーニングが発生していなければならない。

したがって、「ROYAL・21」の表示が周知性を獲得しているか否かは、原告が原告旧営業表示2の使用を開始した昭和五九年三月以降の問題である。

原告は、その商号が株式会社ロイヤルであることも、「ROYAL・21」の表示が大阪府内及びその近辺において需要者の間に広く認識されていることの根拠とするが、原告が使用している営業表示は原告旧営業表示2及び原告現営業表示であり、商号とは無関係である。

(二) ロイヤルという名称の理美容室は、原判決別紙(一三)のとおり、大阪地区でさえ少なくとも一四店舗存在し、その周辺地区においても多い。この中に原告と関係を有する店舗が含まれているかもしれないが、「・21」がつかないとそのことが不分明であること自体、「ロイヤル」の名称がありふれていることを示している。このように、「ROYAL」「ロイヤル」なる名称は、理美容室の営業表示として、係争地域においても、原告のみが他を排して継続的に使用してきたわけでないことは明らかである。

原告は、この点について、原判決別紙(一三)記載の店舗のうち大阪府下の店舗は個人企業であり、原告店舗は、これとは規模、設備を異にし、全く質的に相違すると主張するが、「ロイヤル」「ROYAL」という多くの理美容室の営業表示が併存し、原告のみがこの営業表示を排他的独占的に使用しているものでないという事実こそが重要なのである。原告は、多義的なとらえかたのできる営業形態の統合組織的なある一側面を恣意的に取り上げ、右の理美容室は原告及び被告の経営する店舗と規模、設備を異にするからとして考慮の範囲外に置こうとする、原告及び被告にしても、組織の末端における理美容室には個人企業のものと大差ないものもあるから、原告の右主張は失当である。ちなみに、原判決別紙(二)の原告店舗のうち、美容室だけのものは2、5、7、9、16、18の六店舗のみであり、その余は理容室と美容室の併設店であるのに対し、被告の店舗は、東京の高円寺店のみが理容室で、他はすべて美容室のみであり、理美容併設店はない。

(三) 梅田は大阪の中心で、極めて人的往来の活発な地域である。なるほど梅田地区に原告の店舗が三店存在するものの、「ROYAL・21」ではなく、単に「ロイヤル」という称呼だけを聞いて、直ちに原告の理美容室を想起するほどに、すなわち他の理美容室の営業表示と混同を生じる余地がないほどに広く認識されているとは到底いえない。

二  争点2(被告営業表示1及び2は、「ROYAL・21」の表示と類似し、被告の営業と原告の営業の混同を生じさせているか)

1  原告の主張

(一) 原告及び被告の美容室を利用する者は、二〇歳前後からそれ以上の女性である。これらの者は、「ROYAL・21」の表示の「ROYAL」、被告営業表示1及び2の「ロイヤル」に注目し、両者を比較して目で見ても耳で聴いても類似のものであると感じ、ひいては「ROYAL・21」の表示と被告営業表示1及び2が類似すると感じるものであって、「ROYAL・21」の表示に「・21」が付加されているからといって、「ROYAL・21」の表示と被告営業表示1及び2が異なるものであると理解するものではない。

(二) 被告は、営業表示については外観類似を主として判断すべきである旨主張する。しかし、商品表示の場合には、商品自体がその区別の材料となるが、原告や被告のような営業形態の理美容室の営業表示の場合は、理美容室がビルの上層階に位置することが多い。顧客はこのようなところにわざわざ来集していわゆる「飛び込み」で客となるのではなく、「ロコミ」で客となることが多いのであり、「ロコミ」は称呼類似による混同を惹起するものであることは明らかである。

(三) 右のように被告営業表示1及び2は「ROYAL・21」の表示と類似し、そして、被告の本件被告四店舗のうち、梅田店は、原判決別紙(四)記載のとおり原告梅田近辺四店舗と徒歩一〇分以内の距離にあり、高槻店、宝塚店、芦屋店も、原判決別紙(三)記載のとおり、それぞれ原告の阪急茨木店、アステ川西店、阪急岡本駅ビル店の近くにあるため、原告の営業と被告の営業の混同が生じている。

2  被告の主張

(一) 仮に「ROYAL・21」の表示にセカンダリーミーニングが発生しているとしても、直ちに類否判断の結論が導かれるわけではなく、片仮名「ロイヤル」を含む被告営業表示1の使用差止が認められるためには、「ROYAL・21」の表示のセカンダリーミーニングとしての表示力が極めて強固なものとなり、「ロイヤル」という片仮名のみの表示の使用であっても「ROYAL・21」の表示の特定表示力を損なうものであるとの特別な事情の存在が必要であるが、本件では全くそのような事情は存在しない。

(二) 前記一2(一)記載のとおり、原告自ら「ROYAL」「ロイヤル」なる表示は客観的に識別力がないか、極めて弱いと考え、原告旧営業表示1に「・21」及び図形を付加して識別力を有する表示に変更したという経緯からも明らかなように、「ROYAL」に同じ大きさで一連表記された「・21」は、単なる付加表示ではなく、他の「ROYAL」「ロイヤル」の表示との識別を行うための重要な標識要素である。すなわち、「ROYAL・21」の表示は、「ROYAL」の部分と、「二一世紀に向けて」という意味を込めた「21」の語をドット記号「・」で結合した「ROYAL・21」が一連で不可分となって初めて、識別力を発揮し得る表示となるのであって、「ROYAL」の部分のみを要部と認めるのは相当でない。

同様に、被告営業表示1も、赤色の漢字の「美容室」と、主として黄色の片仮名の「ロイヤル」とを独自の書体・レタリングで表わした表示が一連不可分のものとなって初めて、識別力を発揮し得るのであり、加えて、「美容室ロイヤル」の前に付加した図案化したR文字も重要な役割を果たしているから、「ロイヤル」の部分のみを要部と認めるのは相当でない。

(三)(1) 「ROYAL・21」の表示と被告営業表示1とは、以下のとおり、称呼、観念、外観のいずれからみても類似するものではない。

「ROYAL・21」の表示からは「ロイヤルニジュウイチ」又は「ロイヤルトゥエンティワン」の称呼が生じるのに対し、被告営業表示1からは「ビヨウシツロイヤル」の称呼を生じる。

「ROYAL・21」の表示からは「王室・王家の二一」の観念が生じるのに対し、被告営業表示1からは「美容室王室・王家」の観念を生じる。

「ROYAL・21」の表示は、アルファベット大文字の「ROYAL」と、ドット記号「・」及びアラビア数字の「21」から成るのに対し、被告営業表示1は、「美容室」という漢字と「ロイヤル」という片仮名から成る。

(2) さらに、被告営業表示2は、「ロイヤル」と同一書体の同一色で「東京銀座」を「ロイヤル」と一連表記して「東京銀座ロイヤル」とし、さらに右文字表記の上段にこれとほぼ同じ大きさで、図案化したR文字と「美容室」の文字を表示したものであり、「ROYAL・21」の表示とは、称呼、観念、外観のいずれからみても、全く異なるものとなっている。

(四) 原告及び被告の経営する美容室を利用する者は、原告も指摘するとおり二〇歳前後からそれ以上の女性であるが、それ故に、原告の主張とは逆に、「ROYAL・21」の表示と被告営業表示1及び2とは明確に区別され、混同は生じないといえるのである。

すなわち、右のような女性にとっては、自身の髪型は服装と同じかそれ以上に強い関心があり(服装は取替えがきくが、カットの失敗は簡単にはやり直せない)、美容室の選択については慎重で、その店の技術や雰囲気を重視し、わざわざ気に入った店舗に足を運ぶという行動をとる。したがって、美容室は、一見の客を当て込んで道路沿いの目抜き通りに面して立地することは比較的少なく、ビルの上層階に位置することも多い(現に被告の梅田店は八階に、原告の阪急グランドビル店は二三階に、梅田百又ビル店は五階にある)。また、予約制や、スタッフの多いところでは技術者の指名制度すら採られている。

このように、美容室の女性顧客層は、冷静に店舗を選択する傾向にあり、店名についても、(三)に指摘した「ROYAL・21」の表示と被告営業表示1及び2ほどの違いがあれば、これを混同することはない。

(五) 取引市場を転々流通する商品について使用する表示である商品商標の場合には、商品注文などは称呼のみでされることがあるだけに、商品の取引上の通称として称呼が類似しているか否かは、商標の類否の重要な判断基準となり得るが、本件のような理美溶サービスは転々流通することを予定していないから、その営業表示については、商品商標の場合と同じウエイトで称呼類似を問題にすることは全く適切ではない。外観類似を主とし、付加的に称呼類似を考慮するということになるが、本件では、外観において原告の「ROYAL・21」の表示と被告営業表示1及び2とは明確に区別することができ、前記の女性顧客層が、両表示の表す営業を混同するということはない。

原告は、理美容室の顧客は「□コミ」で客となることが多いのであり、「□コミ」は称呼類似による混同を惹起すると主張するが、「□コミ」は、直ちに称呼類似や混同を惹起するものではない。「□コミ」とは□から□へ伝えられる評判であり、前記の女性顧客層にとって、その評判とは店の技術や雰囲気を内容とするものであり、店舗のみならず、その店舗中のある特定の美容師の評判すら重要であることが多いのであって、単純に店舗の名称のみが□伝てで伝播するものではないし、店舗名だけを手掛かりに顧客がわざわざ来集して客になるということもあり得ない。

(六) また、本件被告四店舗のうち、高槻店、宝塚店、芦屋店は、それぞれ原告の阪急茨木店、アステ川西店、阪急岡本駅ビル店との関係で顧客層が競合するような立地にはない(乙第一二号証ないし第一四号証)。

三  争点3(被告は不正競争防止法上の先使用権を有するか)及び争点4(原告に賠償すべき損害の額)

これらについての当事者の主張は、原判決に示されているとおりである(二五頁から三二頁にかけての三、四の項)。

第四  争点に関する判断

一  争点1(原告の「ROYAL・21」の表示は、大阪府内及びその近辺において周知性を取得しているか)について

1  証拠(甲第三号証、第九号証ないし第三五号証、第三六号証の1~18、第三七号証の1・2、第三八号証ないし第四五号証、第四九号証、第五〇号証の1・2、第五一号証、検甲第一八号証の3~10、証人長濱博)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告店舗は大阪府内及びその近辺にのみ所在し、その各開店日は原判決別紙(一〇)の1及び原判決別紙(一一)の各「開店年月日欄記載のとおりである。平成五年七月に原告店舗のうち美容室二〇店舗(ただし、北阪急ビル店、阪急茨木店、阪急岡本駅ビル店、箕面サンプラザ店、阪急庄内店を除き、理容室との併設店)を利用した顧客は一万六二二五人、理容室一八店舗を利用した顧客は一万八八七二人である。

(二) 原告店舗の美容室のうち、原告梅田近辺四店舗と阪急茨木店、アステ川西店、阪急岡本駅ビル店の合計七店舗(ただし、平成五年九月以降は原告梅田近辺四店舗中のウメチカ店を除く六店舗)における平成四年一月から平成六年四月まで二八か月間の来客者数と売上高は原判決別紙(一〇)の2のとおりであり、これらを合計すると、来客者合計一六万八七〇〇人、売上高総計一三億二三四六万一四七九円に達する(一店舗一か月当たりの平均は、来客者約八九七人、売上高約七〇三万九六八八円)。

(三) 原告は、原告旧営業表示2を使用しはじめた昭和五九年三月ころから現在に至るまで、「ROYAL・21」の表示を記載したチラシを美容室等の開店時あるいは随時配布し、同様の葉書を新年のあいさつや残暑見舞の時節等に郵送して宣伝を行っている(ここでいう「ROYAL・21」の表示は、原告旧営業表示2及び原告現営業表示の「ROYAL・21」の部分を含む)。

(四) 原告は、以下のとおりテレビのスポット広告(一回につき一五秒間)をしており、これらの広告の最後には、画面に「ROYAL・21」と数秒表示されている。

(1) 平成二年三月一日から同月三一日までの間に、毎日放送で一一〇回、関西テレビで一〇三回(費用合計一五〇〇万円)。

(2) 平成三年三月一日から同年四月二〇日までの間に、毎日放送で一七一回、関西テレビで一六二回(費用合計二〇〇〇万円)。

(3) 平成三年八月二〇日から同年一〇月一〇日までの間に、毎日放送で一六九回、関西テレビで一五七回(費用合計一九〇〇万円)。

(4) 平成四年二月二四日から同年四月二〇日までの間に、毎日放送で一一八回、関西テレビで一一五回、読売テレビで一三九回(費用合計二〇〇〇万円)。

(五) 以下の(1)、(3)、(4)、(6)、(7)のとおり、テレビの番組において原告の営業ないしその営業表示あるいはコマーシャルが取り上げられ、原告はそのほか、(2)、(5)、(8)のとおり情報番組のスポンサーとなった。

(1) 原告は、平成二年四月一一日放送の関西テレビ「Aタイム」という番組(午前一〇時~一一時一〇分)において、スタジオ参加者に抽選でプレゼントするヘアケア商品を提供した。右番組において、原告現営業表示が映し出されるとともに、商品の提供者は「京阪神に三四店舗のネットワークをもつ理容・美容ロイヤルトゥエンティワン」である旨放送されている(検甲第一八号証の3)。

(2) 原告は、平成三年五月四日放送の毎日放送「ザ・インフォメーンョン」という番組(午前一一時二四分~二五分)のスポンサーとなった。右番組は、一分程度のものであり、原告の阪急グランドビル店において、技術開発部長がロイヤルストレートパーマについて説明する場面が中心であり(字幕には「ロイヤル21阪急グランドビル店」「ロイヤル21技術開発部長」と表示されている)、原告現営業表示が映し出され、音声でも「ロイヤルトゥエンティワン」と放送されている(検甲第一八号証の4)。

(3) 平成三年五月一五日放送の毎日放送「しまうまのおしり」という番組(午前一時一五分~二時一五分)において、出演タレントが、髪のちじれた女性に対し、「はよいかなローヤルしまってまうで」と言う場面がある(検甲第一八号証の5。これは後記(7)のコマーシャルのせりふを用いたものと思われる)。

(4) 平成三年七月九日放送の毎日放送「新・たかじんが来るぞ!」という番組(午後一一時五〇分~一〇日午前一時一五分)において、もてない男をもてる男に変身させるという企画で、もてない男が原告の梅田百又ビル店において髪型を変える場面がある。そこでは字幕に「ロイヤル21百又店」と表示され、音声でも「ロイヤルニジュウイチ」と放送されている(検甲第一八号証の6)。

(5) 原告は、平成三年八月一七日放送の前記(2)と同じ毎日放送「ザ・インフォメーンョン」という番組(午前一一時二四分~二五分)のスポンサーとなった。原告の技術開発部長がロイヤルストレトパーマについて説明する場面が中心である。字幕には「ロイヤル21技術開発部長」と表示され、音声でも「ロイヤルトゥエンティワン」と放送されている(検甲第一八号証の7)。

(6) 平成四年一月一四日放送の朝日放送「ナイトinナイト」という番組(午前〇時〇七分~一時一七分)において、パンクロックの演奏をする若者が、原告の阪急グランドビル店でヘアースタイルをパンクヘアーに整えてもらっている場面がある。そこでは字幕に「ロイヤル21阪急グランドビル店」と表示され、音声でも「ロイヤルニジュウイチ」と放送されている(検甲第一八号証の8)。

(7) 平成四年三月二七日放送の読売テレビ「EXテレビ」という番組(午後一一時五五分~二八日午前〇時五五分)において、「第二回ローカルCM大賞」という企画により、「ローカルスターCM部門」の二番目に原告のコマーシャルが取り上げられ、その企業名として「株式会社ロイヤル ロイヤルストレートパーマ」と表示されている。そこで紹介されたコマーシャルは、母娘が、娘のくせ毛を直すために美容院に行く、行かないでもめており、それを見ている少年が「はよ行かなロイヤルしまってまうで」と言う、というものであり、最後に「お近くのロイヤルトゥエンティワンヘ」との女性の声が流れ、画面に「理容・美容 ROYAL・21」と表示されている(検甲第一八号証の9)。

(8) 原告は、平成四年一〇月三一日放送の関西テレビ「元気印見つけた!」という番組(午前一一時二五分~三〇分)のスポンサーとなり、同年一一月二日に開店する原告のアプローズタワー店の理容師(女性)を紹介している。字幕には「ロイヤル21アプローズタワ一店」と表示され、音声でも「ロイヤルトゥエンティワン」と放送されている(検甲第一八号証の10)。

2  右1認定の事実によれば、原告は、大阪府内及びその近辺にのみ集中して、美容室二〇店舗及び理容室一八店舗(そのうち一五店舗は美容室・理容室併設店舗)の原告店舗の、そのほとんどを平成元年までに開設したものであり、平成五年七月に原告店舗のうち美容室二〇店舗を利用した顧客は一万六二二五人、理容室一八店舗を利用した顧客は一万八八七二人であり、美容室二〇店舗のうち原告梅田近辺四店舗と阪急茨木店、アステ川西店、阪急岡本駅ビル店における平成四年一月から平成六年四月まで二八か月間の来客者の合計は一六万八七〇〇人、売上高の合計は一三億二三四六万一四七九円に達しているところ、原告旧営業表示2を使用し始めた昭和五九年三月ころから現在に至るまで、「ROYAL・21」の表示を記載したチラシを美容室等の開店時あるいは随時配付し、同様の葉書を新年のあいさつや残暑見舞の時節等に郵送して宣伝を行う一方、平成二年三月一日から同月三一日までの間、平成三年三月一日から同年四月二〇日までの間、同年八月二〇日から同年一〇月一〇日までの間、平成四年二月二四日から同年四月二〇日までの間に、原告の営業につき「ROYAL・21」の表示を用いて毎日放送、関西テレビ又は読売テレビで合計一二四四回のスポット広告をし(費用合計七四〇〇万円)、そのほか、平成三年五月四日、同年八月一七日及び平成四年一〇月三一日放送の情報番組においても同様の広告をし、また、平成二年四月から平成四年三月までの間に合計五回、他のテレビ番組において原告の営業ないしその営業表示あるいはコマーシャルが取り上げられるに至っている、というのである。

3  「ROYAL・21」の表示は、アルファベット大文字の「ROYAL」、アラビア数字の「21」を横書きにし、ドット記号「・」で両者を結んだものであるところ、原告は「ROYAL・21」の表示中の「ROYAL」の部分のみで識別力を有し、これが大阪府内及びその近辺で周知性を取得しているとも主張するかのようなので(第三の一1の(二)及び(三))、まずこの点について検討する。

「ROYAL・21」の表示の中で、「ROYAL」の部分が英語の「ROYAL」に由来し、元来「王の」「王室の」との意味を有し、これから派生して「高貴な」「気高い」との意味を有するに至った形容詞であること、我が国の現在の英語の理解水準からいって、「ROYAL」が有する右のような意味について、一般社会において広く認識されていることは当裁判所に顕著な事実である。そして、理美容業界、特に主として成人女性を顧客(需要者)とする美容業界においては、高貴さ、高級感といったイメージを大切にすることから、「ROYAL」の語は営業表示として好んで使用されるありふれた語であり、原告が周知性を取得したと主張する大阪府内及びその近辺において、右英語「ROYAL」あるいはこれに由来する「ロイヤル」「ローヤル」「ロイアル」といった語を含む営業表示を用いている理美容室は、原判決別紙(一三)記載のとおりであり、原告及び被告以外に、少なくとも、大阪府下で美容室が九店舗(1~3、5~9、13。ただし、2の「ロイヤル徳山美容室」は原告がいわゆる暖簾分けをした店舗である)、理容室が三店舗(11、12、14。ただし、12の「ロイヤル徳山理容室」は原告が暖簾分けをした店舗である)、兵庫県下で美容室が五店舗、京都府下で美容室が五店舗(1~5)、理容室が一店舗(6)存在することが認められる(乙第一五号証の1~11、検甲第一二号証ないし第一七号証、第一九号証ないし第二三号証、弁論の全趣旨)。また、原告が宣伝広告を行う際に使用している営業表示に、前記のように「ROYAL・21」の表示のみであって、本件全証拠によるも「ROYAL」の部分のみを取り出してその周知を図るべく宣伝広告を行っているとの事実は認められない(原告旧営業表示1についても、原告がこれを用いて宣伝広告を行ったと認めるに足りる証拠はない)。

このように、理美容室、特に美容室を営む企業において、「ROYAL」の語は営業表示として好んで使用されるありふれた語であって、大阪府内及びその近辺に限っても、「ROYAL」「ロイヤル」「ローヤル」「ロイアル」といった語を含む営業表示が相当広範に用いられており、原告も意識的に「ROYAL・21」の表示中の「ROYAL」の部分のみを取り出しての宣伝広告は行っていないという状況の下では、「ROYAL・21」の表示のうち「ROYAL」の部分が、単独で識別力を有するとは認められず、ひいては周知性を取得することもないというべきである。

原告は、「ROYAL」「ロイヤル」が識別力、顕著性を有している根拠として、原告の商号「株式会社ロイヤル」が商号登記されていることを挙げるが、商号登記に際しては、同一市町村「区」内において他人が同一の営業のために同一又は類似の商号を登記しているか否かだけが問題となり(商法一九条、商業登記法二七条)、必ずしも商号の識別力、顕著性を判断して登記されるわけではないので、原告の主張は理由がない。また、原告は、前記原判決別紙(一三)記載の店舗のうち大阪府下の店舗は個人企業であり、原告店舗はこれらとは規模、設備を異にし、全く質的に相違するものなので、その存在は、原告の商号又は営業表示である「ロイヤル」が原告の営業を表示するものとして大阪府内及びその近辺において需要者の間に広く認識されるについて何の妨げとなるものではない旨主張するが、採用することができない。

4  次に、「ROYAL・21」の表示自体について検討するに、証拠(甲第号証、証人長濱博)及び弁論の全趣旨によれば、「ROYAL・21」の表示の「21」の部分は、昭和五九年三月のCI(コーポレート・アイデンティティ。企業の個性を示すために一定の標章を用いること)導入により、初めて原告旧営業表示2において使用されたもので、原告現営業表示にも引き継がれているものであって、二一世紀を志向し、未来に向けて発展を期するという趣旨が込められていることが認められる。そして、未来のイメージも一般に企業に好まれるものなので、「21」の部分も、それ自体ではさほど識別力が強いとはいえないが、「ROYAL」と結合して一連に表記された「ROYAL・21」の表示については、前記原判決別紙(一三)記載の「ROYAL」「ロイヤル」「ローヤル」「ロイアル」という語を含む営業表示を用いている理美容店の中にも「ROYAL・21」の表示に類する営業表示を用いている店舗は一軒も存在しないから、識別力を有するというができる。前示のような原告の大阪府内及びその近辺に集中した営業活動及び宣伝告が行われたことも加わって、「ROYAL・21」の表示は、強い識別力を取得し、平成四年末には大阪府内及びその近辺において需要者の間に広く知られるに至ったものと認められる(右時点より前の時点で、「ROYAL・21」の表示が大阪府内及びその近辺において周知性を取得したと認めるに足りる証拠はない)。

二  争点2(被告営業表示1及び2は、「ROYAL・21」の表示と類似し、被告の営業と原告の営業の混同を生じさせているか)について

1  「ROYAL・21」の表示は、前記一説示のとおり、「ROYAL」の部分だけでは識別力を有さず、「ROYAL」と「21」が結合して一連に表記されて初めて識別力を有し、昭和五九年三月の原告旧営業表示2において使用されて以来の営業活動及び宣伝広告により、周知性を取得したものと認められるのであって(前示のとおり、原告旧営業表示1については、原告がこれを用いて宣伝広告を行ったとの事実を認めるに足りる証拠はない)、その外観上も一体感が強く、「ロイヤルニジュウイチ」あるいは「ロイヤルトゥエンティワン」という称呼上も格別長すぎるとはいえず、例えば「二一世紀に向けた王室の」というような観念上も、一体として認識されるに格別不自然ではないから、「ROYAL・21」の表示の要部は「ROYAL・21」全体にあるものというべきであり、これと、被告営業表示1及び2とは、外観、称呼、観念のいずれにおいても相違し、全体として類似しないものといわなければならない。

2  原告は、美容室を利用する者は、「ROYAL・21」の表示の「ROYAL」、被告営業表示1及び2の「ロイヤル」に注目し、両者を比較して目で見ても耳で聴いても類似のものであると感じ、ひいては「ROYAL・21」の表示と被告営業表示1及び2が類似すると感じるものであって、「ROYAL」の表示に「・21」が付加されているからといって、「ROYAL・21」の表示と被告営業表示1及び2が異なるものであると理解するものではない旨主張する。しかしながら前示のとおり、理美容室、特に美容室を営む企業において「ROYAL」の語は営業表示として好んで使用されるありふれた語であって、大阪府内及びその近辺においても「ROYAL」「ロイヤル」「ローヤル」「ロイアル」の語を含む営業表示が相当広範に用いられており、原告も意識的に「ROYAL・21」の表示中の「ROYAL」の部分のみを取り出しての宣伝広告は行っていないという状況の下では、顧客は、「ROYAL」、「ロイヤル」のみに注目して両者を比較するとは考えられない。加えて、証拠(甲第二一号証ないし第三〇号証、第三七号証の1・2、検甲第一号証の1・2、第二号証、第三号証の1・2、第四号証の1~3、第五号証、第六号証の1・2、第七号証、第一二号証ないし第一七号証、第一九、第二二号証、第二四号証ないし第三五号証、乙第二〇号証ないし第四六号証、証人越智強一)及び弁論の全趣旨によれば、美容室の主たる顧客(需要者)である成人女性は、美容室の営業表示だけでなく、店舗の立地、設備、雰囲気、美容師の技術、料金等により、利用する美容室を選択するものであることが認められるから、「ROYAL・21」の表示と被告営業表示1及び2の程度の相違が存すれば、両者を混同するものとは容易に認められない。

3  以上要するに、被告営業表示1及び2は、「ROYAL・21」の表示と類似するものではなく、被告の営業と原告の営業の混同を生じさせているものとは認められない。これに反する甲第八、第五一号証の記載、証人長濱博の証言は、採用することができない。原告が当審で主張したところ及び新たに提出した書証を加味してみても、右判断は動かない。

第五  結論

よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。請求棄却の原判決は相当で、本件控訴は理由がないから棄却することし、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 竹原俊一 裁判官 塩月秀平)

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